んなお心なら、もう口出しは致しません。いえ致すものですか。どうとでも勝手になさるが宜しゅうございます。どんなにお困りなすっても、もう一切存じませんから。」
彼女は腹を立てて、その腹癒せの気味もあって、やたらに気忙しなく用をしたり、そこいらのものをかき廻したりした。それを今井は済まなそうな眼付でちらと見やって、それから首垂れて考え込むのだった。
然し彼女のそういう腹立ちを、澄子は傍から可笑しがっていた。
「お母さんくらい可笑しな人はないわ。自分のことはそっちのけにして、いつも他人《ひと》のことばかり心配しているんですもの。」
それを辰代は聞き咎めた。
「馬鹿なことを仰言い! 自分のことは自分でちゃんとしていますよ。あなたまでそんなことを云うなら、私はもう何にも知りませんから、あなたが何もかもしてみるがようござんす。他人《ひと》さんのお世話をするのは、そりゃ容易なことではありませんよ。」
「だって、今井さんは初めから変人だと分ってるじゃありませんか。」
「いくら変人だからって、御自分のものを他人に持ってゆかれて平気でいるのは、あんまりひどうござんすよ。」
「それくらいのことは、今井さ
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