そして翌朝先ず第一に白木の机をあちこちへ持ち廻って、結局それを窓の下に据えた。この白木の机について、可なりたってから、彼は澄子へこう云った。
「机というものは学生にとっては、最も神聖なものであるべきです。だから私は白木の机を使ってるんです。普通のものは、どれもみな何かが塗ってあります。よく紫檀の机や何かで納まり返ってる者もありますが、紫檀は最もひどいごまかしもので、あれにはみな色が塗ってあるんです。そして生地《きじ》の色らしく見えるのがなおいけません。私のこの白木の机だけは、天然自然の生地のままで、どんなことをしても剥げるということがありません。」
「だって、」と澄子は微笑みながら云った、「あなたはそれを毎日拭いていらっしゃるじゃないの。やっぱりごまかしじゃありませんか。」
「磨きこむのとごまかしとは違います。私は自然を磨きこんでるのです。」
そして彼は絹のぼろ布で、毎日必ず一回は、白木の机をきゅっきゅっと拭き込んだ。
さてその朝、机を窓の下に程よく据えてしまうと、次に柳行李の蓋を開けた。中には、四五枚の着物と、幾冊かの書物と、アルミの鍋と、大きなボール箱とがあった。ボール箱の中に
前へ
次へ
全84ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング