が入院中、僕は毎日人形を持っていってやった。それは僕にとって、純粋な楽しみだった。相手は誰だって構わない。婆さんでも、男でも、美しい姫君でも、子供でも、何んでもいい。ただそれが、例えば特定な清子と限定されると、種々な他の感情が交ってきて、人形を持って見舞ってやるという純粋な行為が毒される。……ね、そうでしょう。だから、毎日人形を持って見舞ったということと、僕が彼女を愛したかどうかということと、何の関係があるんです。島村さんにそれが分らない筈はない。そればかりか……あなたなら云ってもいいでしょう……長尾さんや大西さんの尻にくっついて酒を飲まして貰ってるとは、何たるざまだ、飲むなら彼等と対等に金を出しあって飲め、とそう島村さんは云った。僕は……僕は、それがなさけないんだ。島村さんから、そんなことで軽蔑されるのがなさけないんだ。清子なんかどうでもいい、ただ人形を持っていってやった……それと、同じじゃないですか。長尾さんや大西さんや、また、島村さんやあなたや、そのほかいろいろ僕は、酒代のお世話になってる……年も若いし金もないので、支払いの遠慮をしてる。だが、彼等から金を払って貰うことと、僕が酒
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