を飲むことと、何の関係があるんです。向うで嫌なら、一緒に飲まなきゃいいんだ。僕は一人で飲むだけだ。たかってるんじゃない。ねえ、たかってるんじゃないんでしょう。金は誰が払おうと、自分で払おうと払うまいと、それが酒の味をうまくもまずくもしやしない。酒を飲むということだけが、僕の純粋な行為だ。相手が誰であろうと、たとえ、金肥《かねぶと》りの社会的寄生虫であろうと、利益の尻尾にくいこむダニであろうと……これは島村さんの言葉だが……何だっていいじゃないですか。王侯と飲むのも、乞食と飲むのも、酒の味に変りはない。相手によって味が変るのは、下等な下根《げこん》の奴だ。ここんところが、島村さんにはちっとも分らない。分らないのは仕方がないが、そのために僕を軽蔑する理由にはならない。ねえ、そんなめちゃなことはないでしょう……。」
私は少々うるさく感じて、いいかげんの返事をしていた。するうちに、宮崎は突然調子をかえて、私の眼を覗きこんできた。
「あなたは島村さんとは非常に親しいので、何もかもよく御存知でしょうが、この頃、島村さんに何かあるんじゃないんですか。……この頃ひどく金に困っていられる、そんなことは
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