然しそんなことは、予算にははいらない。」
「予算……。」
「例えば、君の所謂、純粋行為みたいなものだ。純粋行為というのは、無動機の行為とはちがうだろう。だから、あらゆる可能な行為を含むことが出来る。死の行為までも……。」
「そうかも知れません。」
「ところが、死の意慾などというものが、君は人間にあると思うか。死の意慾のないところに、死の行為が為されるとしても、それはもう死の行為ではなくなるだろう。」
「だから、そんな行為はない……。」
「ないけれど、ある。ただ予算にはいっていないだけだ。例えば、君は清子を愛していないと云っていた。もし愛するようになったら、初めから愛していたと云うようになるだろう。予算の立直しだ。」
 宮崎は黙っていた。公園の中は薄暗かったが、新緑の香がほのかに立罩めて、空気は爽かだった。
 宮崎は突然云った。
「もし、僕が彼女を愛していたら、あなたはどう思います。」
「そりゃあ、愛するのは君の自由だが、少し危い。」
「なぜです。」
「ほんとの愛は、世間に対して、闘争形態を取るものだ。然し君には、その力がまだあるまい。力が不足すると、不幸に終るか、それとも……。」
「す
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