まってから顔を赤めた。
そんなことで、酒の酔いの中に冷い穴があいて、どうにもならなかった。それは一番始末にいけないことだ。長尾と大西とは、賑かに飲み直すんだといって、おけいを誘った。もう十二時近かった。私は最後に残って、餉台にしがみついてる宮崎の相手をしてやった。宮崎よりも、清子の方が酔っていた。しまいにうるさくなったので、一人で帰った。妙なことだが、島村が立去ってから、彼のことが何一つ話に上らなかったことを、私は今になって思い出すのである。皆が心では彼のことをとやかく考えていながら、口には出さなかったものらしい。
その夜、二時すぎ、宮崎は清子に揺り起された。電燈が一つついてるきりで、店の中は影深く、不気味に静まり返っていた。清子は総毛立った顔をして、震えていた。泊るのか帰るのかと聞いた。料理人と小僧とは隣家の二階に寝起きしていて、もうそちらに行ってるし、小女は眠ってるし、彼女は一人で困っていた。――実は酔いつぶれながらいい加減に指図をし、うとうととし、ふと眼を覚して、困ってるのだった。おけいは……さっき電話で、今晩帰らないと通じてきた。どうせ、長尾さんたちと一緒だもの……。それを
前へ
次へ
全38ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング