女は不思議にも、鏝をあてないさっぱりした洋髪の方が、どことなく落付いて、云わばマダムらしく見えるのだった。そういうところに、彼女の顔かたちの特長があるとも云える。洋髪になると共に、彼女の態度には何となく取澄したところが出て来た。清子の外に、店には、頬の赤い少女が一人いた。
私と宮崎がやってくると、おけいは愛想よく立って来て、饒舌りちらしながら五六杯応酬をして、それから清子と代った。清子はいきなり宮崎のそばにわりこんできた。
「あら、随分飲んでるわね。」
「当り前さ。酒でも飲まなきゃ、やりきれないんだ。」
大西が、酔眼を据えて、苦笑した。
「それ見ろ、また一人ふえた。実際酒でも飲まなきゃやりきれない、そういう連中が次第に多くなっていくじゃないか。だから僕は、造り酒屋になろうというんだ。今に資本が出来たら、日本一のうまい酒を、日本一に安く飲ましてやる。これが一番効果的な、直接的な、社会奉仕だ。」
清子はじっと宮崎の方を見てみた。
「何だか……変よ。」
「ああ……僕は逢いたい人があるんだ。」
宮崎は突然叫びだして、ふらふらと立っていった。帳場でお燗番をしていたおけいのところに行って、
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