がいつ、不潔なことをしたか、さあそれを証明して貰いたいものだ。僕が清子を愛してるかどうか、それを証明して貰いたいものだ。行こう……。事実が証明してくれる。さあ、笹本に行こう……。」
 そんなわけで、私と宮崎とは遅くなってから「笹本」に行った。行ってみると、長尾と大西とが奥の室で飲んでいた。いつもの例で、一緒になってまた飲みだしたのである。
 茲で少し云っておきたいのは、「笹本」のお上さんのことである。彼女は本名かどうか分らないが皆から「おけい」と呼ばれていて、三十歳前後に見えるけれど、実は四五歳はもっといってるらしく、肥っているわりに肉がしまって、背の高い一寸見られる姿だった。眼に勝気らしい険があって、笑う時に大きな口が目立った。いつも酔ってるか、または酔ってるふりをしていて、よく饒舌った。芝居、料理屋、待合と、どこへでも誘えばつき合うけれど、始終家へ電話をかけて、懇意な客がきてるとすぐに戻ってきた。意外な人と知り合いだった。いつもふだん、黒襟の着物に丸髷を結っていたが、清子が来てからは、清子に日本髪を結わせ、自分は洋髪に結った。大抵の女は、日本髪より洋髪の方が若々しくなるものだが、彼
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