でる島村さんの身体なんか、もっときたないじゃないか。然し僕は、そんなことは問題にはしない。問題は……つまり、肉体的にきたないなんてことを云う、その言葉が、ばかに精神的だというところにある。肉体的なことについて精神的な云い方をする、そこが問題だ。たしかに、島村さんはどうかしている。何かあるんだ。近頃、小説を書いてるというじゃありませんか。」
 この最後の一句を、宮崎は声をひそめて、さも重大事らしくゆっくり云った。そして口を噤んだ。私はばかばかしくなった。島村が小説を書こうと書くまいと、そんなことこそ、どうでもいいことだった。それに第一、島村は時々文芸批評なんか書くことはあっても、あの哲学的な理知的な頭で、どうして小説なんか書けるものではない。彼が小説を書いてるとか、そしてそれにさも重大な意味があるらしく考えたりするのは、小説家たる宮崎の空想にすぎない、と私は思った。だが宮崎は、そのことを私によく考えて貰いたいとでもいうように、そして自分でも考えながら、暫く口を噤んでいたが、またふいに云い出した。
「たしかに、島村さんには、何かあるにちがいない。それだから、僕のことだって誤解してるんだ。僕
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