身を投げだした。
「僕は逢いたい人があるんだ。」
「おい、宮崎、道化たまねはよせよ。」と大西が向うから呼びかけた。「古風な恋愛のまねごとなんかするなよ。……さけはなみだかためいきか……。」
歌の調子が皮肉に響いたらしい。宮崎は戻ってきて、飲み始めた。然し、暫くたつと、また思い出した。
「僕は逢いたい人があるんだ。それとも、ないと思うか。」
「あるならあると、はっきり云えよ。逢わしてやろう。僕が引受けた。」
「君が、……へえー、お門違いだ。僕が逢いたいなあ……逢わしてくれる人はここにはいないや。」
彼は一座を見廻して、それから私の肩へよりかかってきた。
「僕は……静葉……そうだ、静葉さんに逢って見たい。」
一寸異様な沈黙がおちてきた。ただ、長尾が一人微笑していた。
「静葉に逢いたい……なら、逢おうじゃないか。ここに呼ぼうよ。島村がいなくたって、来るさ。」
「だめよ、およしなさい。」
清子が、なぜか、むきになってとめた。
「あたし、そんなの嫌いよ。」
「おい宮崎、清ちゃんが、そんなの嫌いだってさ。」と大西が云った。「そんなのが嫌いだってさ。何とか云えよ。」
私は、肩によりかかって
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