を最後の避難所と意識しながら、万引をしにやって来るのであろうか。もしそうならば、結果は、つまらない悲喜劇の繰返しにすぎない。満たされない欲求の繰返しにすぎない。――それとも、多くの心理学者が解釈するように、彼女は一時の生理的並に精神的錯乱にかられるのであろうか。そして後で自ら惘然とし、後悔し、代金を払い、懊悩し、而もまた一時の錯乱にかられて、身分と財産を最後の避難所とする潜在意識を以て、再び犯すのであろうか、もしそうならば、結果は、単に錯乱と後悔と懊悩との繰返しにすぎない。沼の泥をかきたてることの繰返しにすぎない。
何等発展のないばかげた繰返し、それを支持するものは、彼女に於ては、身分と財産を最後の避難所とする意識であり、或はその潜在意識である。このもののために、彼女には到底、「己が船を焼く」ことは出来ないだろう。最後の避難所が、この場合、即ち「船」なのである。
遠征に出たノルマン人と、常習万引婦人と、こう並べるのは余りに均衡のとれないことであろうか。然しながら、己が船を焼くことの出来る者と出来ない者と、それを並べるのも同様に均衡のとれないことなのである。両者は人種が異るのだ。単な
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