なる自然――なぜなら、自然は常に豊かだから。そして夢みるような街道――なぜなら、街道は旅の象徴であり、旅は夢想だから。そして二人の恋人か或は仲間――なぜなら、一人で道を進み得るのは神のみであり、人は伴侶として藁屑をも掴みたがるものであるから。そしてこの二人は、或は美服を着飾り或は襤褸をまとおうとも、或は革の鞄を抱え或は小さな包みを提げようとも、或は七面鳥の丸焼を飽食し或は堅パンを噛ろうとも、必ず、肩に一本の鶴嘴をかついでいる――なぜなら、自ら道を切り拓いてゆかねばならないから……。
豊かな自然のなかの街道を鶴嘴をかついで進む二人の恋人或は仲間。それは恐らく滑稽な情景であろう。少くとも映画の結末になり難いだろう。然しながら、「新らしい物語」を夢みるラスコーリニコフにとっては、そして作者ドストエフスキーを持たないラスコーリニコフにとっては一本の鶴嘴が必要なのである。
二
広漠たる荒海の上を、数隻の船が、満帆に風を孕んで突進する。帆船ながら、厳めしく武装されている。乗組の人々も、精気溢れた逞ましい者等で、弓矢や槍や剣を身につけている。船は波浪をつき切って、一直線に進んでゆ
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