感ずる「旅へのいざない」は、二重の意義を持つ。その旅は、あらゆる遺棄と獲得とを必然条件とする冒険の旅である。而も遺棄は確実であり、獲得は不明である。地平線の彼方は全然見通しがつかない。彼方に、「序次と美と栄耀と静寂と快楽と」が果してあるかどうか、その信念は勿論、憧憬さえも失われている。明かなのは現在が安住の地でないこと、そしてただ発足と建設。何処へ、そして何を、それは次の問題だ。先ず発足そして建設。目標は、内容は、つまり「一つの言葉」は、おのずから生れてくるであろう。――斯かる旅にとっては、前途に一筋の大道は存在しない。自ら道を切り拓いて進むより外はない。道を切り拓くにつれて、それが一つの言葉となってゆくのだ。
 詭弁であろうか。なぜなら、目標不明の発足は彷徨に終り、内容不明の建設は徒労に終るから。然しながら、新たな時代の首途には、曖昧模糊たるものがあり、星雲の運行に似たものがあり、必然と偶然とが衝突しあって生ずる不可測な力がある。この力を、吾々の知性は常に追求する。
 この追求に身を以て当る場合に、新たな情景が展開される。
 美しい木立、柔かな草原、青い大空、晴朗な日の光、つまり豊か
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