に影を落してる中に、ぼんやりと何かの姿がある。誰だ。見つめると、姿は消えてしまった。
俺は眼を外らした。すると、またその姿が現われてきた。見えるのではなく、感ぜられるのだ。それをじっと見ると、姿は消える。眼を外らすと、また現われる。
俺は眼をよそへ向けたまま、其奴の方へ近づいていった。見られるのをきらってるようだから、見てはいけない。
「お前は誰だ。」
「お前は誰だ。」と同じことを言う。
「人に見られるのが、嫌なのか。」
「お前こそ、人に見られるのが嫌だろう。」と逆襲してくる。
「嫌なものか、俺の方をじっと見てみろ。」
「さっきから見ている。なぜ顔をそむけるのか。」
俺は言葉につまった。眼を向けたら、其奴は消え失せてしまうに違いない。俺がそっぽを向いてるのをいいことにして、俺の方をじっと見ているのだ。どうしてくれようか、と考えながら、俺はじりじりしてきて、眼を据えた。視線の真正面に、地下室の古板囲いがある。
焼け爛れた死体の堆積の中から、白骨の手が一本にゅっと突き出ている。白骨の足も一本にゅっと突き出ている。手はどこかへ伸び出そうとしてるようだ。足はどこかへ駆け出そうとしてるよ
前へ
次へ
全22ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング