猫捨坂
豊島与志雄
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(例)眼※[#「穴かんむり/果」、第3水準1−89−51]
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病院の裏手に、狭い急な坂がある。一方はコンクリートの塀で、坂上の塀外には数本の椎が深々と茂っている。他方は高い崖地で、コンクリートで築きあげられ、病院の研究室になっている。坂の中央に、幅二尺ほどの御影石が敷いてあり、そこが人間の通路で、両側には雑草が生え、石炭灰や塵芥がつもり、陶器の破片が散らばっている。全体が陰湿な感じだ。仔猫や病み猫などがしばしば捨てられている。坂の名は何というのか分らず、恐らく名もないのであろう。俗に猫捨坂と呼ぶ人もある。
この猫捨坂の、病院側の一帯が、戦争中の空襲に焼けてしまった。本建築の病室の一廓が残っただけで、木造の附属建物や附近の民家など、すべて焼けてしまった。そのため、猫捨坂は多少とも明るくなる筈だったが、却って妖気が深まった。
病院側の崖は、二段に築き上げられている。中段は四尺ばかりの
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