広さで、坂の上方から平らに崖地をめぐり、そして上段は焼け跡の広場である。その中段の中ほどに、一種の洞窟があり、上段から見れば地下室となっている。鉄格子に磨硝子の扉が立てきってあるが、硝子は焼け壊れ、扉全体がぐらぐらだ。そこに焼けトタンを押し当て、針金で縛ってある。トタンの隙間から覗けば、洞窟内は、上方の出入口から明るみがさしている。金魚屋に見られるような四角な池があり、その中に、死体が堆積しているのだ。黒焦げに干乾びてる胴体、皮膚が焼け爛れてる頭蓋骨、ばらばらになってる肋骨、折れ曲ってる四肢、所々に、腕や脛がにゅっと突き立っている。アルコールのタンクに火がはいって、浮いていた多くの死体が、じりじり焼かれながらのたうった有様が、そこに再現してるのだ。異様な臭気が漂っている。別の室にも一つのタンクがあり、分厚な蓋がかぶさっている。恐らくそこには、アルコールの中に、幾つだかの死体がぶかぶか浮いてることであろう。
 その陰惨な光景を、誰かが覗き見て、噂が立った。わざわざ見に行く者もあった。然し、空襲に常時さらされてることとて、誰も我が身の明日のことさえ保証出来ず、病院の死体貯蔵場の焼け跡など、
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