の主な仕事は、ただ地面を働い歩くことだったらしい。出来るだけ体を地面に低くつけ、腕と膝とで、出来るだけ早く匍い進み、背負った爆薬と共に、仮想の敵戦車にぶつかるのだ。出来る限り低く、出来る限り早く、匍ってゆけ匍ってゆけ。それが毎日の仕事だ。
「戦争が終って立ち上ると、俺は眩暈がした。」
「酔っ払った時の眩暈と、同じか。」
「いや、そんなもんじゃない。酔っ払った時は、外の世界がぐるぐる廻る。俺たちのは、頭の中がぐるぐる廻った。」
俺たち、と彼は複数で言った。だが、それは兵隊だけに限らず、更に大きな複数ともなろう。大抵の者が、何等かの意味で、地面を匍い歩いていたのだ。立ち上って眩暈がしたのは、まだいい方で、多くの者は、腹匍いのままぐったりのびてしまった。
そんなのが、上野駅附近に寄り集まって、うようよしている。風に吹き寄せられたのでもない。箒で掃き寄せられたのでもない。腹匍い腹匍い、行きづまって、自然と落ち合ったのだ。そして芥溜のようにつもって、むんむん温気を立てている。
アルコールを振りまいてやるがいい。アルコール焼酎でもよろしい。アルコール・ウイスキーでもよろしい。俺は友のアルコー
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