時には三十分近くも待たされることがあった。真中に四角な大きな火鉢が置いてあったが、中の火は大抵白い灰ばかりになっていた。扉も無い四方の入口からは寒風が遠慮なく吹き込んできた。木の腰掛に坐っていると、足の先からぞくぞくと寒さが全身に上ってきた。実際その狭い待合所の中にはいってきて、冷たい腰掛に坐る者は、老人か疲れた者ばかりだった。他の客は皆歩廊の上に立って電車を待っていた。歩廊の両側にレールが走っていた。線路の向うには幅一尺ばかりの溝があって、いつも澄んだ清らかな水が流れていた。何処からか湧き出てくる水であろう。両側は高い崖になっていて、その縁に道路が続いていた。何故にそう平地を深く掘り下げて線路を拵えたものか分らないが、改札口から橋を少し渡って薄暗い階段を下りてきて歩廊に立つと、地下室に下りて来たような感じがするのだった。それでも両側の崖に切り取られた空には、星がちらちら見えていることが多かった。
青白く光っているレールの上を、長い貨物列車が通る時なんかは、電車の来るのが特に遅かった。貨物列車はいつも汽笛を鳴らさないで来るので、初めはそれが電車かと思っているうち、次第に近づくにつれて
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