て、また私は、閉め切った暖い室の中から立ち上るのが懶くなってしまった。
けれども夜になると、朝からつみ重なってきた退屈の量が堪えられないほどになり、食物を一杯つめ込んだ胃袋が妙に重苦しくなって、私はいつもS――にいる坂口を訪ねていった。坂口は非常に碁が好きで私と丁度いい相手だったので、いつも喜んで迎えてくれた。私が暫く行かないと、向うから誘いの葉書を寄した。坂口も隙で退屈してる男だった。昼間は会社に勤めていたが、夜になるともう家で勉強する気も起らないとみえて、妻と女中と三人きりの家庭に肥った身体をもてあつかっていた。その上人のいい彼は、私が長い関係の女と別れた前後の事情を知っていて、幾分私を慰めようとする心持ちもあったらしい。そして私の方でも、他の友人などを尋ねて無駄口をきくよりも、彼の所へ行ってすぐに碁盤に向う方が、どれだけいいか分らなかった。妻君の方とも私は前から知ってる気の置けない間柄であった。
それに、上野からS――までの山の手線電車は、退屈しきってる私の心に或る面白さを与えた。
夜の十二時すぎ、S――駅の歩廊《プラットホーム》の上に在る待合所で、私はよく、十分、十五分、
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