犯」を押えようと思っているに違いない。それで懇意な女を連れて行って、前から手筈を定めてあの歩廊の上で婦人誘惑の芝居を演じることにする。それには彼奴が来ていないと損をするから、次の火曜は休んで、金曜に実行する。もし捉えられても立派に弁解は出来るし、捉えられなくても兎に角素敵な芝居にはなる。
「誰か適当な女は居ませんか。」
「さあ、僕にはありませんがね。」
「では僕が連れて来ましょう。僕の家のすぐ近くのレストーランの女中に、そんなことの好きなのが一人いますから。その代り役者には君がなるんですよ。知った間だと中途で放笑《ふきだ》したりなんかすると折角の計画が無駄になりますからね。」
私は承諾した。
多少危険だという気もしたが、どうせそれ位までゆかなくては腹の虫が納まらないような気もした。これ位のことはしてやってもいいとも考えた。またうまくいって彼奴と一緒に笑い出して、一寸そこいらまで案内して、うち解けながら談笑するのも愉快だと考えた。その男を使ってる「閑人《ひまじん》」も惨めだが、その男は一層惨めで、救済してやる必要がある、とも考えた。
私は次の金曜日を待った。
所がその金曜日になる
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