際の感情だった。と云って私は、自分のそういう行為が決して下らないものではないとも信じていた。本当に人間の心が素直である時には、私達のやり方は凡ての人から是認さるべきものと思っていた(然しこれは後からつけた理屈かも知れなかったが)。
そして私達は、人間の心が如何に卑屈に出来てるか、如何に絶えず用心をし絶えず脅かされてるか、如何に敵意に満ちているかを、まざまざと見た。初めに言葉をかけると、向うの人も大抵は短かい返事をした。然し二度目に言葉をかけると、多くは返事もしないで、妙な陰険な眼付で見返した。夜更けであるのと、あたりが薄暗いのと、寂しい小駅であるのと、それがいけなかったのかも知れない。然し本当はそれがなおいいわけではなかったか。皆其処では心が淋しくはなかったか。また、もしこれが何か物でも尋ねるのであったら、皆親切に教えてくれたかも知れない。然し、用の無い言葉の方はよりよく人の心を温めるものではないか。――私達はそういうことまで考えた。理論は実行の後からついてくる、そう思って私達は二人で苦笑もした。
然し何よりもそれは、私達の当時の生活状態では興味あることであった。
薄暗がりで眺め
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