十分位には当りますからね。」
「でも電車が後れた方が面白かございませんか。」
「え?」
「あなた方には屹度。」そう云い続けて彼女は笑った。
「あなたはそれでは私達のことを知っているんですか。」
「いえ、別に……。」
そう云いかけて彼女は私の顔をじっと眺めた。
「いやいつか見られたんですね。これは驚いた。……おい村瀬君!」そういって私は村瀬を呼んだ。
けれど村瀬が近づいて来る間に、向うに電車が走って来た。其処は線路がカーヴをなしていたので、電車は見えたかと思うとすぐ側にやってくるのであった。私は何にも云う隙がなかった。
「何れまた。」そう云いすてて私は電車に乗った。
電車の中では何にも云わないことにしていた。その上、女は向うの方に腰掛けてしまった。ただ時々私達の方を見ていた。
けれどもそれだけの結果でも私には非常な成功だった。私は嬉しくなった。
「なる程女の方が男よりは進歩してますね。」と村瀬は結論した。「これから女の方を狙《ねら》うとしましょうか。」
そして私達はその「狙う」という言葉に笑い出した。
結果は予期に反した。女の方が男よりも一層不愛想なことが多かった。
或る時
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