方が勝味が多かった。「幸先《さいさき》がいい」と私は思った。そして十二時になるとすぐに座を立った。
 駅に来てみると、村瀬はまだ来ていなかった。電車がすぐに来たが、私はそれをやり過した。すると間もなく村瀬がやって来た。
「やあ失敬、随分待ちましたか。……そう、僕も急いでやって来たんですがね。今日はどういうものか馬鹿に勝負運がよくてね。」
「僕もそうだったですよ。屹度幸先がいいですね。」
 私達は非常に嬉しかった。そしてあたりを見廻すと、二三人の人が居るのみで、それも見たことの無いような人ばかりだった。今に誰か来るだろうと思って待っていると、いつのまにか時がすぎて電車が来た。私達は軽い失望を覚えた。わざわざも一台電車を待つだけの勇気はなかった。
 けれども次の金曜には、村瀬が一人見つけたといった。でっぷり肥った赫《あか》ら顔の折鞄をマントの下に抱え込んだ男だった。私はその姿を見ると興ざめた心地がした。それで順番を村瀬に譲って、傍から見ていた。
 粗らに二三人の人が歩廊には佇んでいた。赫ら顔の男は柱によりかかるようにしてそのうちに立っていた。村瀬は何気ない風で近づいて行って、その側に立った
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