もしまわれていたし、何処も起きてる家はなかった。幸い其処の角にあるカフェーの表が開いていたので、その中にはいった。二階の室で四五人の客が大声に何か話し合ってるのが聞えたので私達は安心してゆっくり卓子につくことが出来た。そして麦酒をのみ、料理を食って、後にはウイスキーのコップまで据えさした。
私達は純白のテーブルクロースの上に両肱をついて、互にまじまじと顔を見合った。
「お互に名前も知らないでは変ですから、一つ名乗りをしようじゃありませんか。」そう私はいった。空腹だったので、いくらかもう酔っていた。
「やあ、すっかり名乗りを忘れていましたね。」と彼も云った。
向うに居た給仕女《ウェートレス》が変な顔をして私達の方を眺めた。
彼は村瀬という姓だった。私も自分の名前を知らした。
「ええ松本君だって、聞いたような名前ですね。」そう云って彼は濃い眉根を寄せて考えていたが、「あそう。君ではないですか、そら、梅吉といっていた妓の何は……。」
私は驚いて彼の顔を見守った。
「やあ、やはりそうですね。君のことなら聞いたことがありますよ。君達のことをひどく心配していた小さいのを私もちょいと知ってい
前へ
次へ
全44ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング