すよ。」と彼は続けて云った。「此度こちらに知った者が球突屋を初めましてね、前から知り合いのお上さんで気が置けないものだから、わざわざこうして出かけて来るんです。近くの球屋だと知った顔ばかりで面白くないし、それにいろいろ面倒ですからね。こちらの方が場所も珍らしいし、球も羅紗も新らしいし、場末情緒といったようなものも可なり面白いものですしね。」
「そしてまた新らしいフラウでも……。」
「いや君そう短刀直入に来られてはどうも……。」
「然し随分御熱心のようだから。」
「そういえば君も随分熱心ではありませんか。」
「僕ですか、僕は退屈で仕方がないからまあ隙つぶしに来るようなわけですよ。」
「やはり君もそうですか。僕も実は退屈してやって来るようなわけです。何をしてもさっぱり面白くありませんからね。」
そんなことを話してるうちに電車がやって来た。なんでも三十分余も待たされたらしかった。
車内はこんでいた。で私達は別々に離れなければならなかった。
上野で下りた時、私達はまた一緒になった。そしてぶらぶら広小路の方へ歩いて行った。
「一寸何処かでお茶でも飲みましょうか。」と彼は云った。
もう夜店
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