聞えない。此度は母を階下にやって、自分一人二階に居たが、もう何の話声もしない。その代り、俄に騒々しく虫の声がしだした。
そのことが変に心にかかる。一人で居るのが恐ろしい気がする。すぐに床を敷いて貰って寝る。眠れない。しまいに隆吉を自分の布団の中に抱き入れる。隆吉はすやすや眠っている。いつも隆吉を抱いて寝る母が、淋しそうに夜着の襟から顔を出して、こちらをじっと見ている。素知らぬ顔をして隆吉の方へ屈み込んだが、涙が出て来て仕方がなかった。
俺はもうY子のことを何とも思ってはいない。E子を愛している。憎いだけに猶更愛している。
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十一日八日――暫く日記を止すつもりだったが、また書き続けることにする。これは初め、自分の身体に対するストリキニーネの反応だけを、ごく簡単に誌し止めて、後の参考にするつもりだったが、余計なことばかり多くなってるのに気づいて、十日余り中止してみたのである。それを再びなぜ始めるかは、俺自身にも分らない。今俺の頭の中には、互に矛盾する無数のものが錯綜している。
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