反抗
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)保子《やすこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)猶更|悄《しょ》げて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]
−−
一
井上周平は、隆吉を相手に、一時間ばかり、学課の予習復習を――それも実は遊び半分に――みてやった後、すぐに帰ろうとした。其処へ保子《やすこ》が出て来て、心もち首筋から肩のあたりへしなを持たせた様子と、かすかに開いた唇から洩れる静かな含み声とで、彼を呼び止めた。
「井上さんちょいと!」
例のことだな、と周平は思った。そして、月の最終の日だということに妙な憚りを置いて、すぐに帰ろうとした自分の態度が、自ら卑屈に感じられた。
彼は少し顔を赤めながら、保子の後について茶の間へ通った。
「今日《きょう》は急ぐんですか。」
「いいえ、別に……。」と周平は口籠《くちごも》った。
「そんなら、ゆっくりしていらっしゃいよ。
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