周平はそれに気づいた時、惘然としてしまった。何だか幻をばかり見続けてきたような気がした。ふり返って考えると、吉川の写真のことや隆吉に関する日記のことなどが、今更に思い出された。その時の保子の態度に、一人勝手な推察を逞うしたことが、我ながら馬鹿々々しかった。吉川のことなんか保子にとっては何でもないことだ、そう解釈すれば、万事が平易に片付くようだった。
 周平は夢から醒めたような気がして、街路を歩き廻ったり、郊外に出てみたりした。所が、そういう彼の心を新たな不安がふっと掠めた。
 吉川のことにあんなに拘泥したのは、他に理由がありはしなかったのか? と彼は自ら反問してみた。吉川のことを頭から取去っても、保子に対する気持は、前と少しも変りがなかった。してみると、表面だけ吉川のことを借りてきて、実は自分自身のことを焦慮していたのではあるまいか。知らず識らずのうちに、内心では保子を恋したのではあるまいか?……そうだとは、いくら何でもいい得なかった。そうでないとも、一寸断定しかねた。
 一方にまた、保子の気持も彼には分らなかった。彼に対して彼女が心のうちに懐いてるものは、愛であるようにも、遊戯である
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