失うものではないかしら、と横田がいう。すると水島さんは、そんなことはない、子供のない細君は処女と同じ位にコケッティッシュだと仰しゃる。そして――(あら、大変なことが書いてあるわ)そして、君の細君もその例に洩れないんだと。すると横田が云うには、保子の態度はコケッティッシュだが、心はヒロイックだって。そうですかって水島さんが私にお聞きなさるので、私は、そのどちらでもない、フーリッシュでしょうよ、と答えてやった。それで大笑いをした。
読んでしまってから保子は、周平の顔を見て「どう?」というような眼付をした。周平は何と云っていいか分らなかった。頭では馬鹿々々しいと思いながら、心では真面目になっていた。
「も少し読んでみましょうか。それとも、もう聞きたくないの?」と保子は尋ねた。
「聞かして下さい。初めからすっかりでもよござんす。」と周平は答えた。
「慾ばってるわね。じゃあも一つきり。なるたけ長い所を読んでみましょう。」
そして彼女はぱらぱらと頁をめくった。
今日、隆吉が学校から帰ってきて、何だか考え込んでる様子。碌に口も利かないで悄れている。――(ああ、これはあなたの参考にもなること
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