」と周平は尋ねた。
 隆吉は黙っていた。周平は幾度も尋ねたが、一言の返辞も得られなかった。しまいにはもてあぐんだ。肩ですすりあげながら、身動きもせず、涙もこぼさないで、嗚咽のうちに石のように固くなってる隆吉の姿を、彼はじっと眺めやった。その執拗な気持が、彼のうちにも伝わってきた。彼は口を噤んだ。いつまでも黙っていた。長い時間がたったようだった。
「……だって、お祖母さんは何とも云わなかったんだもの。」
 そういう低い声がした。周平はふと顔を挙げた。見ると、隆吉はもう泣き止んで、彼の方を上目がちに窺っていた。
「僕は嘘をつきはしないよ。」
 周平はなお黙っていた。不快な気分が濃く澱んできた。眉根をしかめて、其処に寝そべってしまった。
 暫くすると、隆吉はまた云い出した。
「本当にお祖母さんは何とも云わなかったんだもの。僕がいくら頼んでも、見つからないといったきり、持って来てはくれなかったんだよ。……でも、も一度頼んでみよう。こんど来たらそう云ってみるから……。」
「もういい。」と周平は云った。
「だって……。」そう云いかけて隆吉は中途で口籠った。そして周平の方へ寄ってきた。「僕もお父さん
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