に、困ったような色が浮んでいた。いやに隠してるのだな、と周平は思った。
「隠したって駄目だよ、ちゃんと知ってるから。」と周平は云い出した。そして、悪い意味でその写真を見たがってるのではないこと、隆ちゃんのお父さんだから是非見たいような気がすること、お祖母《ばあ》さんに逢えたらじかに頼んでもいいこと、だから、変に隠されると気持が悪いこと、見せられない理由があるのならあるとはっきり云って貰いたいこと、そんな風に彼は云い進んだ。然し云ってるうちに、自分の方に或る疚しい点が感じられてきた。自ら気分が苛立ってきた。彼は一転して隆吉を攻撃しだした。嘘を云うのは一番悪い、お祖母さんが何か云ったのなら云ったと答えるがいい。どんなことだか云えないのなら強いて尋ねはしない、云ったのを云わないと答えるのは悪いことだ、……などと説き立てた。と彼ははっとして口を噤んだ。隆吉はいつのまにかしくしく泣きだしていた。
身体を軽く机で支え顔を伏せて、肩を顫わせながらすすりあげていた。周平は初めの驚きが鎮まると惘然とした。なぜ泣くのか訳が分らなかった。
隆吉は長く泣き止まなかった。
「どうしたの。え、なぜ泣くんです?
前へ
次へ
全293ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング