と周平は尋ねた。
「吉川さんの家と親しくしていた人があって、僕はその人から直接に聞いたことなんだ。確かな事実だ。……ただ、心理の方面のことは、分り易くするために僕が解釈を下したんだが、全く事実に即しての上だから、間違いはない。」
確信の調子で得意然としてる村田の顔を、周平は暫くじっと見戍っていた[#「見戍っていた」は底本では「見戌っていた」]。未来の小説家を以て自任してる村田のことだから、事実を歪めて勝手な想像を加えてる点が、必ずしも無いとは云えないのだった。然し話の全体の筋は何としても肯定せざるを得なかった。
幸福なるべき横田の家にあって、なお隆吉の身にまつわってる淋しい孤独の影を、周平は思い合した。
「横田さんや奥さんは、今でもなおそのことを苦しんでるだろうか。」
「さあ……。」と村田は答えた。「然し何事でも、当事者になると側《はた》から想像するほど苦しむものじゃない。人生は寧ろ一種の喜劇だからね。真剣のつもりでも案外冗談のことが多いものなんだ。」
「その代り、冗談のつもりでも案外真剣のことが多い場合もある。」
「それはそうさ、だから人生は喜劇なんだ。」と村田はいやにそのことを
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