ね。或は一種の罪亡しのためかも知れないが、それでは余りに善良で愚昧すぎる。お祖母さんに対する同情と感激とからだとするなら、何も老人を女中奉公に出さずとも、他に方法がありそうなものだ。一体横田さんには一寸底の知れない深さがあるから、何を考えてるのか想像のつかないことがよくあるのだ。そのことだって、何か考えがあってのことだろう。或は保子さんのあの生一本《きいっぽん》な性情から出たことかも知れない。それは兎に角として、横田さんの申出をお祖母さんは非常に喜んだ。そして子供は横田さんの家に引取られた。それがあの隆ちゃんなんだ。お祖母さんの方は、或る下町の、何でも株屋の主人とかいう話だが、そこの女中の取締みたいにして雇われてるそうだ。針仕事が非常に上手なので、殊に重宝がられて、わりに幸福だとかいう話だった。」
村田が話し終えるまで、周平は注意深く聞いていた。うっかり信用出来ないぞという気がした。村田の話には余りに主観的の分子が多かった。説話と註解とが同じ位の分量になっていた。そして肝要な点が妙にぼやけてるくせに、或る部分は余りに深く立ち入りすぎていた。
「どうして君はそう詳しく知ってるんだい。」
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