た錻力の大きな薬鑵の湯で、彼女は無雑作にお茶をいれた。そして二人はぼんやり顔を見合った。もう何にも云うことも考えることもないような、落着いた空しい気持だった。
四十三
夜が明けたばかりの寂しい街路を、周平は電車にも乗らず、何物にも眼を止めず、怪しく乱れながら落着いてる気持を懐《いだ》いて、真直に下宿へ帰った。
お清とのその朝のことが、頭の底にこびりついて離れなかった。それかといって、何物もはっきり掴めるものはなかった。鼻に沁み込んだ匂いに似ていた。考えることが出来なくて、ただ嗅ぎ取られるばかりだった。そしてそれが一種の象徴となって心に映った。もはや其処には、お清も保子もなかった。惑わしい一の女性があるのみだった。お清と保子と、何れへ心の眼をやっても、それは単なるお清でも保子でもなかった。二つのものが一つの面影のうちに融け合っていた。
その面影に向って、別れを告げる途しかもはや残っていないことを、彼は感じた。否既に、半ば別れてしまったのだった。二人が一つになったことが、何れとも選び難くなったことが、それを決定してくれた。息苦しい雰囲気から脱した後の、何物もない広々とし
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