た。もはや何物もない空《むな》しい気持だった。然し、その中に心を浸していると、その空しさが一種の力強いものに感ぜられてきた。身を投げ出した後に、自ら途が開けて居た。彼は昨夜からのことを思い出した。お清と綺麗な一夜を明かしたことが、今は奇蹟でなくて、如何にも自然らしく思われた。心の底を明し合ってみれば、もはや慾望も何も無くなっていた。相許した晴々しさがあるばかりだった。彼はその空しい気持で、凡てに別れを告げ得る気がした。
低い曇り空の下に、薄明りの中に、何処となく夜明けの擾音が伝わってきた。雀の鳴く声が聞えた。周平は瞑想から醒めて、急に寒さを覚えながら窓を離れた。そして火燵の中に屈み込んだ。
打ち開いた窓から射し込む明りと消え残ってる電灯の光りとが、一つに融け合って、影のないだだ白い明るみを室の中に湛えた。夜とも昼ともつかない懶《ものう》い明るみだった。その中で、お清はすやすや眠っていた。夜着から肩を半分出して、横向きに枕の上につっ伏していた。白粉汚れのした紫の襟から、頸筋の荒い肌が覗いていた。陰気な曇りを帯びた額に少し脂を浮べ、頬の所々に濃く白粉を寄せて、ぐったり疲れきってる様子だ
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