平気よ。やきもきしたって噂が消えるわけじゃないから。」
周平は彼女の顔を眺めた。彼女は薄ら笑いに似た影を口元に湛えながら、何かを考え込んでるらしく眼を見据えていた。彼は何故ともなく不安になった。すたすた歩きだした。彼女も彼と並んでついて来た。いつまでも黙っていた。
当もなく裏通りを歩き廻ってるうち、ふいに電車通りへ出た。人影も電車の響きもなかった。がらんと静まり返ってる真直な通りに、街灯の光りだけが淋しく並んでいた。周平は急に立ち止った。種々な思いがすーっと何処かへ消えて、盲いたような気持になった。何のために夜更けの街路をお清と一緒に歩き廻ってたか、譯が分らなかった。
「もう何時《なんじ》でしょう。」とお清は呟いた。
二人はぼんやり顔を見合って佇んだ。謎のような気持が取残されていた。と、お清は俄に彼の眼の中を覗き込んできた。
「あなたはこれから下宿へ帰るつもりなの?」
周平はまだぼんやりしていた。
「仕様がないわ、こんなに遅くなって。私の家まで送って来て下さらない?」
周平は機械的に首肯《うなず》いた。どうしようという意志もなければ、どうしていいかも分らなかった。また、それを
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