してきた。彼は吐き出すようにして云った。
「竹内を探しに来たんだ。」
「え、竹内さんを!」
「竹内は何時頃帰ったんだい。」
「もうだいぶ前よ。」
「運のいい奴だな。」
「竹内さんがどうしたというの。」
「僕は竹内を殴ってやるんだ。」
「え!」
お清は足を止めて、喫驚《びっくり》した眼付で彼の顔を眺めた。彼はそれに構わず、ずんずん歩いて行った。
暫くすると、彼女は足を早めて寄り添ってきた。
「本当に殴るつもりなの?」
「本当さ。」
と答えたが、周平はふと気懸りになって、彼女の方を顧みた。小さく結んだ口と一杯に見開いた不安げな眼とが、彼に或る信頼の念を与えた。彼はしみじみとした調子で云った。
「僕はもう何もかも駄目になっちゃった。」
「どうして?」
彼女はコートの下から、そっと彼の袖を捉えてきた。
其儘二人は暫く黙って歩いた。
「ねえ、どういうこと?」とお清はまた尋ねてきた。
それがぴったり周平の呼吸と合った。彼は即座に凡てをぶちまけた。
「我慢出来ない噂なんだ。僕が横田さんの奥さんと君とに同時に情交を結んで、それでしゃあしゃあとしてるというんだ。その噂が皆の間に広まってるのを
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