な頭を少し傾《かし》げながら、何気ない様子で池の中を覗き覗き歩いた。
「鯉は何処にいっちゃったんだろう。」
池の面《おもて》は、長い物影を宿して黝ずんでいた。西に沈んでゆく日の光りが、眼に見えるように感じられた。
「もう帰ろう、遅くなるから。」
隆吉は返辞もせず首肯《うなず》きもしなかったが、周平と一緒に足を早めた。二人は水禽の檻の前をもすたすた通り過ぎた。
電気や瓦斯の火がともるに間もない薄ら明りだった。慌しい街路の雑沓に巻き込まれると、隆吉は肩をすぼめて寄り添ってきた。周平も其方へ身を寄せて歩いた。
彼の頭の中ではもう、お清のことも保子のことも遠くへ距っていた。手に触れる隆吉の身体から、吉川のことがじかに胸へ響いてきた。吉川の手記が一句一句はっきり思い出された。彼は隆吉をひしと抱きしめたいような心地で、それでも何かに駆り立てられるような心地で、隆吉の手を取ってぐんぐん歩いた。心の底で、吉川の轍を踏むものか! と叫んだ。眼に涙がにじみ出てきた。
隆吉を送り届けると、周平はそのまま帰ろうとした。それを、保子の影深い澄んだ眼でじっと見つめられた。躊躇してると、何処を掴んでいいか
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