彼はまた云い続けた。
「元の家《うち》にね、大きな石榴の木があったよ。お父さんが大事にしてたんだよ。庭は狭いけど、石榴の木があるからいいって、いつも云ってたよ。」
「だって隆ちゃんは、お父さんが死んだ時はまだ赤ん坊だったろう。どうしてそんなことを覚えてるの?」
周平からじっと見返されると、隆吉は口を尖らし眼を円く見開いて、自分でも思い惑ったような表情をした。それから黙り込んでしまった。
が、暫くすると、また口笛を吹いてさっさと歩き出した。
散歩の人も二三人きり見えなかった。常磐木の横を廻ってゆくと、其処の日向に三脚《さんきゃく》を据えて、向うの灌木や芝地になだれ落ちてる外光を、点々と写し出してる画家があった。立って見てる人も居ないのが、あたりの景色と共に、余りに静かで淋しかった。
白い小さな蝶が一匹、枯れつくした花壇の方から飛んできた。その後を追うともなくゆっくり追って行くと、後ろに檜葉の茂みを控えた暖かい芝地で、蝶はぱっと高く舞い上った。一線の大きな叢を選んで、周平は腰を下した。ほろろ寒い檜葉の下影から、弱々しい虫の声が聞えてきた。
周平が夢想に耽ってるまに、隆吉は団栗《ど
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