彼の姿を見上げた。周平は黙って其処に坐りかけたが、外光を遮られた狭い室で、つまらない時間を過すよりも、自由に外を歩きたくなった、――いつのまにか彼は、隆吉を外に引張り出す癖がついていた。
「外へ行かない?」
「うん、行こう。」
 周平が半ば下しかけた腰を浮かせてるまに、隆吉はぴょんとはね起きて、すぐに黒い毛糸の帽子を取ってきた。外へ出る時には、たとい和服の時にでも、学校の帽子よりその多少子供子供した而も高慢ちきな毛糸帽を、周平は好きだったのである。隆吉にはそれがよく似合った。
「叔母さん、行ってきますよ、井上さんと。」
「ええ。」
 と答えて、保子がじろりと見上げたのを、周平は慌てて押被《おっかぶ》せるように云った。
「実地教育なんです。」
 周平は保子の眼付を見ないで、その口元の微笑みだけを眼に止めて、先に立って外に出た。
 そして実際彼が隆吉を連れて行くのは、博物館や動物園や植物園や、淋しい神社の境内などへであった。一度美術展覧会へ行ったこともあるが、隆吉が変に執拗な眼付で肖像画をばかり探し求めてるのを見て、周平は不気味な不安を感じた。それから展覧会へはもうはいらなかった。もっと呑
前へ 次へ
全293ページ中242ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング