、」と保子は静かな声で云った、「あなたくらい寒がりはないわよ。いつも火鉢にかじりついていて、そんなに寒いんですか。」
「ええ。私は寒さが一番厭なんです。」
「そう。じゃあ今に火燵を拵えてあげるわ。」
 周平は顔を挙げて、針の手先から眼を離さないでいる彼女の方を眺めた。化粧水と水白粉《みずおしろい》とだけを薄《うっ》すらと刷いた横顔が、神々しいほど淋しく見えた。その彼女を前にして、火燵の中に蹲りながらひそかに涙を流してる自分の姿が、想像のうちに浮んできた。
「あなたは冬の休みをどうするつもりなの。」
 周平はその言葉を聴きもらした。黙ってると、彼女は初めて顔を挙げて彼の方を見た。
「冬休みに旅でもするの。」
「いいえ」と周平は答えた。「金がないから東京を動けやしないんです。」
「無いからというより、無くなしたからでしょう、余り勝手な真似をして。」
 周平はぎくりとした。何とか答えようと思ったが、彼女からじっと見つめられると、心の底まで見透される気がして、顔を伏せた。お清とのことも知られてるに違いなかった。然し知られても構わないと思った。愈々の時には、一切を告白して彼女の前にさらけ出してや
前へ 次へ
全293ページ中240ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング