単にお清のことばかりでなく、その底にまだ何かありそうな調子だった。けれど、いくら考えても思い当る事柄はなかった。ただ保子とのことが一寸頭に浮んだけれど、それは誰にも知られる筈がなかった。
 皆がどういう噂をしてるか、その底まで彼はつきとめたかった。然し、よく一緒に酒を飲んだりなんかしていても、心を許せる親しい友は村田一人きりだった。といって、わざわざ村田に尋ねるのも業腹《ごうはら》だった。
 なにそのうちには分る、と彼はしまいに投げだしてしまった。そしては、却て反撥的な気持になって、時々蓬莱亭へ行ってみた。然し、三階へはもう上らなかった。お清に対しても自分自身の心に対しても、変に憚られるものがあった。
 室の隅っこの小さな卓子に就いて、ぼんやり考え込んでると、お清は時々やって来た。彼女の様子は前と少しも変らなかった。ただ一種の親しみを見せて、低い声で囁やくように云った。
「あれから竹内さんがさっぱり来なくなったわ。少し薬が利《き》きすぎたようよ。」
 周平が黙ってその顔を見ると、彼女も笑みを含んだ眼付で見返してきた。
「あなたはこの頃何を考え込んでるの。気にかかることでもあって?」

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