橋本にばったり出逢った。
「やあ、珍らしいね、今日は学校に出たのか」と足を止めて橋本は云った。
「出るには出たが、面白くないから帰るんだ」と周平は答えた。
 そして彼は、そのまま橋本と別れるつもりで、すたすた歩きだした。四五歩行くと、後から橋本の声がした。
「それは、学校より蓬莱亭の方が面白いにきまってるさ。」
 周平は驚いて振り返った。橋本は微笑みながらついて来ていた。
「皆が君の腕前に感心してたぜ。あのしたたか者のお清を手に入れようとは、誰も思わなかったからね。……然し、注意しなけりゃいけないぜ。お清一人ならいいけれど……。」
「何だい?」
「いや……まあいいさ。しっかりやり給え。万一の場合には僕も力を添えてやるよ。なあに、若い者の特権だからね」
 周平はその顔を眺めたが、言葉からと同じく、何の意味をも掴むことが出来なかった。然し深く尋ねたくもなかった。
「今日は一寸急ぐから、何れまた逢おう。」
 面喰ったような瞬きをしてる橋本を其処に残して、彼はぷいと立ち去った。
 つまらないおせっかいを出しやがる、と彼は忌々《いまいま》しげに思ったが、その後で、橋本の言葉が妙に気になってきた。
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