机の上に抛り出すつもりで、懐から引出して、何の気もなく一寸開いてみた。……中には紙幣が十円と五円と二枚はいっていた。その朝野村から借りてきたままのものだった。
彼は惘然と考え込んだ。お清が何のつもりでそういうことをしたのか、彼には合点がゆかなかった。然し兎に角心あってしたことには違いなかった。彼女は細かなのを――二三円だけを彼の金入から引出して、他は皆自分の金を使ったのだ。ああいう身分の女としては全く意外なことだった。そして……「空っぽかも知れないわよ」と冗談のように云った彼女の言葉が、彼はその時気にも止めなかったが、今はっきり思い出された。
考えていると、それからそれへと種々なことが頭に浮んできた。もはや彼女から遁れられないような気がした。
お清と高井英子と同一人ではないかという疑問は、それが消え失せた今となっては、根のない馬鹿げたもののように思われた。然し、その疑問が今迄如何に重大な働きをしていたかを、彼ははっきり知ることが出来た。余りにも事もなく消え失せはしたけれど、その後では、凡ての事情が一変してしまった。恐れていたことが遂にやってきた。彼は直接お清に面して立たなければな
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