が、その間に彼女は身を引いて、停留場の方へ歩き出した。
電車の上から彼女が、堅く引緊めた頬に微笑を浮べて、伏目がちにこちらを透し見やった時、彼は振りもぎるような気持で、つと歩き出した。彼女を乗せた電車が側を走り過ぎると、凡てがしいんとなった。
彼は真直に下宿の方へ帰っていった。早く身を休息《やすらい》のうちに横たえたかった。もう何にも考えたくなかった。
星の光りの淡い寂しい空の下に、掘割に沿った崖道が先低く続いていて、その向うにぽっと明るい広辻の見えるのが、却って佗しい気分を唆った。首垂れながら歩いていると、何処からかまぐれ犬が出てきて、裾のあたりをうそうそ嗅ぎながらつけてきた。彼はそれをやり過しておいて、ふいと横町へ外れた。暫くして振り返ってみた。まばらな軒灯の光りが冷たく縮こまって見える、薄暗い夜更け通りには、生き物の影は一つも見えなかった。彼は不気味な慴えを感じて足を早めた。
下宿へ帰って自分の室にはいると、みすぼらしい室の有様が、ぴたりと心に映《うつ》ってきた。彼は俄に寒さを。覚えて、両手を胸に押しあてながら震えた。その時、懐に押し込んでる金入を着物越しに感じて、それを
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