、ふと顔を挙げた。
「あなたは苦学してるんじゃないの。」
「苦学というほどでもないさ。」と彼は苦いものでも吐き出すようにして云った。
「私これで、あなたのことはよく知ってるつもりよ。……私もね、東京へ逃げてきた当座、それはつらい生活をしたのよ。一日お藷《いも》をかじって過したこともあってよ。けれど、その頃が一番よかったわ、今から考えると。」
周平は俄に眼を輝かした。
「今君は何をしてるんだい。」
「何をって、カフェーの女中じゃないの。」
「それは分ってるさ。だが、何処に住んで何をしてるんだい。」
「何にも別に悪いことはしてないつもりよ。」
「将来何をするつもりだい。」
「そうね、今考え中よ。」
周平は更に疊みかけて尋ねようとしたが、彼女が口元に薄ら笑いを湛えてるのを見て、言葉が出なくなった。それを駄々っ児らしい気持で云い進んだ。
「ねえ、聞かしたっていいじゃないか。」
「今に分るわ。」と云って彼女は眼で笑ってみせた。そして急に調子を変えた。「それじゃ行きましょうか。」
彼女が手を叩いて、女中を呼んで、それから、勘定を済ますまで、周平は黙って頭をかかえていた。自分自身が妙に頼りなく
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