ことを考えて、涙ぐましい心地になっていた。お清の言葉に顔を挙げて見やると、酒のためか、額や蟀谷のあたりに陰鬱な影を漂わしていたが、ぽっと熱《ほて》っているらしいその顔から、湿いを帯びた黒目と唇とが、まざまざと覗き出していた。
「何だか淋しい晩ね。」
 心もち傾げた首をそのままに、身を反らせ加減に疊についていた左手を餉台の上に持ってきて、人差指の先で一寸頬を支え乍ら、彼女は室の隅にじっと眼を定めた。
 その姿から、周平はもぎ離すようにして眼を外らした。愛慾とも感傷ともつかないものが、しみじみと胸の底から湧き上ってきた。電灯の光りが余りに明るく感ぜられてきた。心苦しくなって坐り直した。
「もう出ようか。」
「ええ。」
 口先だけで軽い返辞をして、それでもじっと見返してきた彼女の眼を、周平は顔を伏せて避けた。そして咄嗟に、懐の金入を彼女の前に抛《ほう》り出した。
「僅かしかないが、それでいいようにしといてくれよ。」
 その日の朝、飜訳の原稿を少し届けて野村から借りてきた十五円と、他に細《こま》いのが少しはいってる筈だった。
「そう。じゃあ預かっとくわ。」
 彼女は金入を帯の間にしまいかけたが
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