出た。
「もう活動や寄席《よせ》も遅いわね。」
 その言葉が彼には、何かを促すように聞き做された。
「一寸話があるんだが、も少し歩かない?」と彼は云った。
 大きく見開いた眼でじっと見られたのを、彼は上から押被《おっかぶ》せた。
「もう疲れたの。」
「いいえ、歩くわ。……どんな話?」
 彼は何とも答えないで、云い出すべき言葉を心の中で考えながら、池の岸に沿ってゆっくり足を運んだ。彼女も彼と肩を並べてついてきた。
 霧は少し薄らぎかけていたが、まだ星の光りは見えなかった。一面に茫とした中に、弁天島や対岸の点々とした灯が、魚の眼のように浮出していた。枯蓮の静まり返ってる池の面から、裾寒い空気が寄せてきた。周平は眼を足下に落しながら云った。
「真面目な話だから、本気で答えてくれなくちゃ困るよ。」
「あなたが本気で云うんなら、私も本気で答えるわ。」
「そしてね、これは秘密の話なんだから……。」
「ええ、誰にも洩さないわ。」
 余り事もなげな調子だったので、周平は多少不安な気もしたが、もう躊躇する場合でなかった。いきなり切り込んでいった。
「君に姉さんがありはしないかい。」
「あるわ、二人。」

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