はまた詳《くわ》しく、保子と横田とのそれぞれの態度を、頭に浮ぶまま話してきかした。
それから暫くして、通りの曲り角になった時、村田は突然大声でいった。
「分ったよ。」
周平は喫驚して足を止めた。
「君も随分頭の鈍い男だね。」と村田は猶歩き続けながら云った。
周平は二三歩足を早めて、その後から追いすがった。
「どう分ったんだい?」
「勿論横田さんは知っていたのさ」と村田はきっぱりと云ってのけた。
「そうだろうか。」
「そうにきまってるさ。どちらから云い出されたことかは分らないが、兎に角二人で相談の上のことだよ。第一奥さんは、良人に内密《ないしょ》で何かするような人じゃない。」
「それは勿論僕も信じてるけれど、然し今日の横田さんの態度が……。」
「腑に落ちないというんだろう。だから君は頭の働きが鈍いんだ。」
「なぜ?」
村田はそれに答えないで、外のことを云い出した。
「なるほど、余計なことを考えてたから、今日は早く帰ると云い出したんだね。お蔭で僕まで夕飯の御馳走になりそこねちゃった。何処かで飯を食わないか。……つき合ってもいいだろう。」
「ああ、それは構わないが、今のことはどうなん
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