者の姿を見て取ることが出来なかった。そこへ、誰かが慌しく階段を上ってきた。
「おはいりなさいよ、知らない人じゃないから。」と云ったのはお清の声だった。
 それに答える低い声がして、二人は向うの室にはいった。
 周平は変な気がした、聞くともなく耳を傾けていると、暫く低い話声が続いた後に、あははと高い笑声がした。竹内の声そっくりだった。はっと思った時、「知らないわよ、いい加減になさい、」という声と共に、お清は向うの室から出て、階段を下りていった。
 それが変に周平の気にかかった。やがてお清らしい足音が、料理や酒を運んできたらしく、階段を上って向うの室にはいると、周平は我知らず立ち上ったが、また思い直して長椅子に身を落した。それでも、知らず識らず向うの話声に耳を澄した。然し何にも聞き取れなかった。
 彼は苛ら苛らしてきた。これまで向うの室に知らない客が来ることはあったが、いつも彼の注意を惹かないほど高い話声や笑声のみだった。所がその晩だけは全く調子が変っていた。彼は先刻のお清の言葉と竹内らしい笑声とを思い出した。それから俄に、これまでの竹内の変な態度が頭に浮んできた。
 竹内に違いない、そう
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